交際期間0時間の花嫁 ――気がつけば、敏腕御曹司の腕の中――
 私はひとつため息をついて、テーブルの上に置かれた水色の便せんを見やる。ついさっきホテルのスタッフから渡されたものだった。

 ――親愛なる安達みずほ様
 今この状況に至ってから、こんな形で婚約を解消することを心からお詫び申し上げます。
 君にとってこれほど失礼なことはないし、本当に心苦しく思っています。
 もちろんいくら言葉を重ねたところで、とうてい許されないことはよくわかっているつもりです。
 原因は君ではなく、あくまで僕にあるのですから。
 しかしこのまま自分を偽って結婚すれば、結果的にもっと君を傷つけてしまう。せめて本当に取り返しがつかなくなる前に――

 手紙はさらに長々と続いていたが、それは要するに……私の夫になるはずだった桐山圭介からの別れの宣告だった。

(取り返しがつかなくなる前に、って言われても)

 もう充分過ぎるくらい取り返しがつかない。

 すでに両家の親族や友人、仕事関係の招待客も集まり始めているはずだった。
 彼にすればギリギリまで悩んだ末の決断だと言いたいのだろうけれど、まさか式の間際に姿を消してしまうなんて。
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