交際期間0時間の花嫁 ――気がつけば、敏腕御曹司の腕の中――
(何してるんだろう、私?)

 自分でもどうかしていると思う。長瀬さんが留守だとしても、いつ戻ってくるかわからないのだ。顔を合わせたくないくせに、こうして家にとどまっているなんて。

 けれど、なぜか胸がざわめいてしかたない。

(あ、ピクルス!)

 そういえば、今朝はデリケートな観葉植物の様子もチェックしていない。私は無理やりのように理由を見つけ出し、リビングルームへ足を踏み入れた。

「……失礼します」

 また誰にともなく声をかけ、歩き出した時だった。

「えっ?」

 大きなダークオレンジのソファの陰から、デニムを履いた足先が見えた。

(やだ! どうしよう?)

 長瀬さんは家にいたのだ。ソファで眠り込んでいたのかもしれない。

 私は慌てて踵を返そうとしたが、なぜだか足は勝手に前に出ていった。いっそう胸騒ぎが強くなって、そうせずにはいられなかった。

「長瀬……さん?」

 声をかけても、返事はない。思わず前に回り込んでみると――。

「長瀬さん!」

 私は悲鳴を上げて立ち竦んだ。

 長瀬さんは手足を投げ出し、苦しそうに顔を歪めて、ソファに横たわっていたのだ。

「大丈夫ですか、長瀬さん?」

 どう見ても、ただごとではない。少し顔が赤らんでいる気がして手を当ててみると、額はかなり熱かった。
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