恋愛タイムカプセル
 コンビニに着くと、私はカゴを持ってメモに書いてある飲み物を入れていった。結城社長はそれとは関係ないお菓子のコーナーから適当にぽいぽいと選んで私のカゴに入れていく。それも、差し入れということだろう。

「太っ腹ですね、社長」

「社員に働いてもらわないとおまんまの食い上げなんでな」

 そう言うものの、彼は優しい。────これが、優しさってことなのかな。私は彼の態度を見て、なんとなく実感した。

 本当の優しさというのは、案外こういうものなのかもしれない。誰にでも与えるものではなく、相手のことを思いやれること。

 でもだとしたら、彼は一体どんなことを考えていたのか。

 荷物を半分づつ持ってオフィスへ向かう。私は先ほど結城社長に言われたことを考えていた。

 春樹くんが打算的な人物でないにしろ、何かの意図があって私に優しくしていた。その理由をいくつか考えてみたが、一つはとても嬉しいもので、もう一つはとても悲しいものだった。

 けれどきっと、どちらも違う。私は思考を無理やり止めた。

 彼が私に好意的な感情を抱いているなんて、ない。それはきっと同級生としてだ。そして、悪い感情を持っているのだとしたら花火大会や食事に応じることはないだろう。

「若いなあ。恋愛で仕事が止まるなんて」

「社長も若いですよ」

「いつでも相手のことが頭から離れないなんて、もうないさ。本気になれてないだけかもしれないけどな。ま、頑張れよ。思うままに行動できるのは若い間だけだ」

「……初恋の人なんです。でも、初恋の人とは、うまくいかないっていうじゃないですか。すでに色々やらかしてますし……」

「初恋じゃないだろ」

「え?」

「篠塚はその男ともう一度会って好きになったんだろ。なら、二回目だ。次はきっともっと上手くできるさ」

「それは、屁理屈だと思います」

 私は、彼に恋をしている。

 分かっていたけれど、考えないようにしていた。あんなにダサくなったのに、心の中は変わっていない。

 あの頃の恋を現実に持ってきたように私の中に閉じ込めていた気持ちが(せき)を切ったように溢れ出す。

 私は、彼が好き。春樹くんが好きだ。忘れてなんかいなかった。
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