恋愛タイムカプセル
私はその日図書館で『かえるの王様』を借りた。
元々うっすら知っている程度の話だったけど、一度読むとわりとよくある話だった。例えるなら、『美女と野獣』のかえるバーションのようなお話だ。
お話会は来月だから時間はあるが、仕事をしながら描くとなると時間が限られている。私はすぐに取り掛かった。
絵本など書いたことがないが、小さい頃はよくこういうものを描いた覚えがある。大人になると、無駄に構図がどうとかややこしいことを考えるから駄目だ。
紙芝居の作成は思っていたよりも難航した。多分、これを彼がみると思うから余計にだろう。ついいい出来のものを作ろうと、くだらないところで見栄を張ってしまってなかなか作業が進まなかった。
由香にそのことを報告すると、彼女は近所のおばさんになったみたいに私の背中をバンバン叩きながら喜んだ。
「やっだ、いつの間にそんなことになってたの!?」
「そんなことにって……ちょっと、仕事引き受けただけだよ」
「あのねえ、何も思ってなきゃ普通そんな話振ってこないよ。きっと向こうも朝陽に気があるんだって」
「そんなことないよ。彼の態度は昔からああだもの」
「じゃあ昔から好きなのよ」
「ちょっと、今までの話聞いてた?」
「もっと自信持ちなよ。昔はそうじゃなくても今は違うかもしれないでしょ? ただ仕事を振ったにしても、嫌な相手にそんなこと頼まないって」
「それはそうだけど……」
「ただ、ダサいのだけが残念ね。いっそ朝陽がその「王子様」を改造して元の彼に戻してあげたら?」
「別にいいの。ダサくても彼は彼なんだから」
「最初は嫌がってたくせに」
確かに、最初は嫌だった。あの野暮ったい眼鏡も、ボサボサの髪型も、浮いて見える服装も、全部嫌だった。というか、おかしく見えた。
けれど今はそんな彼を見てもなんだか可愛く思える。色ボケしているのかもしれない。
「あーあ、朝陽が第一号かあ」
「第一号?」
「うちの事務所独り身ばっかりじゃない。恨まれるよ〜」
由香はお化けみたいなポーズをとって私を脅す。
「ま、まだ付き合うかどうかもわからないのに、気が早いよ」
「どうだか。朝陽みたいな純なタイプはね、コロっと相手にほだされて突然彼氏ができたり結婚したりするんだから。気をつけなさいよ。変な人連れてきたらお母さん許しませんからね」
「どこがお母さんなの」
私は仕返しに由香の背中を叩く。話を聞いてもらえて、少しほっとしていた。
怒っていると思っていた春樹くんはいつも通りだ。まだ、二人の関係を続けていける。このまま頑張っていれば、いつかは彼が振り向いてくれるのではないかと思った。