俺の名前はジョンじゃない!

そして今日も……。

 朝――いつものように窓を開けて、外の空気を取り入れていると向かいから元気な声が聞こえてきた。

「おはよう、ジョンっ」
「……はいはい、おはようございます」

 すでに窓枠に足を掛けて待機していた美咲は身軽に俺の部屋へ入ってきた。

「どうして、そんな挨拶しか出来ないかなあ、ジョンは」

 不満そうに俺の顔に手を添えて唇を尖らす美咲。

「別にいいだろ? 寝起きはいつもこうなんだよ」
「それなら……目、覚まさしてあげる」

 言うが早く俺の顔に近づいてくる美咲の顔、次いで塞がれる唇。

 昨日よりも長く、より熱く、そう感じる時間が心地よかった。

「……目、覚めたでしょ?」
「あ、ああ……」

 少し赤く染まった頬を向け、俺を見つめる美咲は満足そうに頷いていた。

「それよりも、早く着替えないと学校に遅れるよ。ほら、早く早くっ」

 俺の背中を押して促す美咲に苦笑しながら、制服を手に取って着替え始めた。
 
 無論、うしろから悲鳴に近い声が聞こえて部屋から飛び出していくのを吹き出すのを我慢しながら見ていた。


「そんな事ばかりしてると、おはようのキスはジョンにしかしてやらないんだからっ」
「つまり、『ジョン』とするのはスキンシップって事か?」
「そ、そうよっ。洵とおはようのキスをしてるんじゃないからね。これはご主人様からの愛の証よ」

 そんな声が廊下から聞こえてきてとうとう我慢できずに吹き出していた。

「な、なんで笑ってるのよっ」
「俺は美咲とキスがしたいんだけどな……。『洵』とはしてくれないのか?」
「もうっ、ジョンのばかっ」

 俺と美咲の関係もどこか変なのは分かっているが今はこのままでもいい。

 俺は美咲の良き幼なじみで飼い犬って事で……しかし、いつかは俺の気持ちを伝えたいと思っている。


「絶対に、洵にはしてやらないんだからねっ」


 ただ、俺の予想とはどうにも違う方向に進んでいる気がしなくないけど、これはこれで楽しいからいいとするか。

「ほら、急いでよ――ジョンっ」
「はいはい……今行きますよ、ご主人様」

 もう少し、『ジョン』で頑張っていくとしますかね……。
< 13 / 13 >

ひとこと感想を投票しよう!

あなたはこの作品を・・・

と評価しました。
すべての感想数:0

この作品の感想を3つまで選択できます。

  • 処理中にエラーが発生したためひとこと感想を投票できません。
  • 投票する

この作家の他の作品

放課後○○倶楽部

総文字数/124,187

コメディ161ページ

表紙を見る 表紙を閉じる
色んな人達が集まれば、そこに個性が存在する。 個性が存在するから楽しいのである。 この学園にも個性が色々があるけれど、その個性はどんな風に絡み合って交わるのか……それは誰にも分からない。 さあ、その一歩を踏み出して目撃してみよ。 その目に映るは真実か、幻か、それはあなただけにしか分からない。 ……って、誰だよ? こんなところに意味不明な小説を置いたのは。まあ、そんな感じで意味不明でグダグダ感がたっぷりのお話です。
見えない世界でみつけたもの

総文字数/11,739

恋愛(その他)18ページ

表紙を見る 表紙を閉じる
見えない世界で見つけた大切なもの。 事故で失明をした少年、雄太とその彼女、静。 ずっとそばにいたい……いて欲しい。 過去を乗り越え、本当の愛を手に入れた二人の物語。
星をつかまえて……。

総文字数/3,134

青春・友情9ページ

表紙を見る 表紙を閉じる
夜空の星を見ながら妹は「星を掴まえたい」と囁く。 その言葉の意味を、妹が残してくれた思いを、僕は胸に刻んでいく。 これは、妹が旅立つ数日前の物語である。

この作品を見ている人にオススメ

読み込み中…

この作品をシェア

pagetop