俺の名前はジョンじゃない!
「……さて、と。帰らないとお母さんがうるさいからね」

 何が起こった思考が停止した頭で考えても分からない。ただ、軽く触れただけの唇から感じた温もりと甘い香り。


 ……俺、キスされたのか?


「いつまでぼーっとしてるのよ、ジョンっ」

 照れ隠しなのか真っ赤に染まった顔で声を荒げている美咲は歩き出そうとしたが立ち止まり、俺に手を差し出していた。

「え、あ……」

 一体、何なのか分からない俺は手と美咲の顔を交互に見比べて困惑していると――
「ジョン、お手っ」
 大きな声を出したので驚いて反射的に美咲の手に自分の手を置いていた。

「それじゃ、帰るよ」

 有無を言わさず、俺の手を掴んで歩き出した美咲に引っ張られるようにうしろを付いて行く俺。

 夕焼けの中、長く伸びる影二つの影は一箇所だけ繋がっていた。

 掌(てのひら)から伝わる美咲の鼓動に俺の心臓も同調するように同じリズムを刻み始め、歩くリズムも自然と一緒になっていた。

「なあ……美咲」
「何?」
「俺は犬扱いか?」
「ジョンは私のワンちゃんなんだから当然でしょ」

 これまた有無も言わせない迫力で言い切った美咲だが、その様子あまりにもおかしくて俺は吹き出していた。しかし、美咲もおかしかったらしく互いに顔を見合わせて一緒になって笑い、繋いだ手をそのままに家路へ着いた。

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