俺の名前はジョンじゃない!
「ジョン、早く着替えてよ」
「……お前がいたら着替えられないだろうって」
「私はジョンの裸なんて見飽きた――にゃあっ」
「世間様が誤解するような事は言わないように」

 丁寧に首根っこを持って部屋の外に連れ出し、廊下に投げ捨てる。

 見上げて俺に抗議の視線を向けている美咲は両手を振り回し――
「暴力反対っ、ジョンのばーかっ、アホっ」
 ご近所な大声で大騒ぎ。

「黙れ。本当に裸、見せるぞ」
「きゃーっ、変態がいる」

 大声で喚きながら階段を下りていく美咲をため息を吐きながら見送り、俺はジャージを脱いだ。


 そもそも、俺が『ジョン』と呼ばれるようになったのは小さい頃に見たテレビ番組が原因である。

 それは可愛い子犬やら子猫やらが登場するご定番の動物番組で、動物が好きな美咲のお気に入りの番組でもあった。

 その日は俺の家と美咲の家とで家族揃って仲良く夕食を食べて食後の団欒(だんらん)をしていたのだが、テレビ画面を食い入るように見ていた美咲が「ワンちゃん飼いたい」と突然言い出した。

 当然、美咲のお母さん(俺から見れば、おばさん)は「駄目よ」の一言で済ませたのだけど、その瞬間、駄々っ子のスイッチが入ったようで泣き喚き、暴れ散らし、手当たり次第にものを壊していく暴君と化してしまった。

 そうなると手が付けられない美咲に何を思ったか、うちの母さんが「それなら、洵をあげるわよ」と言い出した。

 それにおばさんも加わって「それなら『洵君』って言うより、『ジョン』って方がピッタリね」と、二人で爆笑しているのを呆然と見ていた俺の肩を父さんとおじさんに叩かれて無言で頷かれたのを今でも鮮明に覚えている。

 それからというもの美咲は俺を『ジョン』と呼び、両親達も面白半分に一緒になって呼ぶので、すっかり定着してあだ名のようになってしまった。

 俺は犬じゃないっていうのに……。

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