海の向こうで-番外編-


と私は鮎斗に言う。鮎斗は彼のことが大好きで、その程度は下手したら私が負けてしまうかもしれないってくらい。

だから本当は一緒に行きたくなかったけれど、私と仲がいい男と言ったら鮎斗くらいしかいなかったから仕方なく連れてきた。言い方が悪いな、鮎斗だってわざわざ授業を抜けてまで私を送ってくれたんだから感謝しなきゃだよね。


「いや、次の授業が結構大事で」


その言葉でなんとなく察した。行きたいけど行けない、というところか。

それにしても鮎斗は真面目だなと感心する。私だったら何の授業でも……たとえイケメンの佐倉先生の授業だとしても……絶対に譲れないなと思う。その点では私の好き度が勝っている…って訳でもない、か。


「送ってくれてありがとね」


「ん」


鮎斗は適当に返すと、すたすたと早歩きで来た道を戻ってしまった。


鮎斗が角を曲がって見えなくなるのを確認してから、私は鍵穴に海華から貰った鍵を突っ込み、カチャリと回した。スムーズに動いたドアは、私を快く迎え入れてくれた。


「お邪魔しまーす…」


ひっそりひっそり、彼の家の廊下を通っていく。そして手当り次第ドアを開けていくと、一番奥のドアの先に彼が眠っていた。


「…あ、かり?」


彼はわざわざ起き上がろうとしていたから、私は慌てて彼の肩を押して無理矢理にでも寝かせる。最近私のことをようやく名前呼びにしてくれていて、熱にうなされている今でさえそれが変わらないことに嬉しくて胸がきゅっとなる。


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