今日もお兄ちゃんの一途な恋に溺れる。
うるんだ瞳はもう我慢できないって訴えかけているみたいで、理性が引きちぎれそうになる。


「チー」


「翔く……」


彼女の背中に手を伸ばしてそっと抱きしめる。


慰めるようにポンポンと小さく叩く。


必要以上に強く抱きしめないように慎重に心にブレーキをかけた。


彼女は安心したように身体をあづけて目を閉じる。


「チー、そんな顔誰にも見せないで」


「ん……」


「見せていいのは俺だけだからな」


「うん」


シンと静まり返った生徒会役員室で自問自答した。


はやる心に冷静になれと必死に言い聞かせながら。


千桜に今求められているのは兄貴の俺なのか、男としての俺なのか。


わからないんだ、千桜の気持ちが。


その答えはいつまでも出なかった。


これまでだったら彼女のことならなんだってわかっているつもりでいたけど、最近の彼女のことはどうしてもわからなかった。
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