今日もお兄ちゃんの一途な恋に溺れる。
「ああすまんな」


翔くんにスーパーの袋を手渡す父はいつもの穏やかな笑みを浮かべていた。


それにしても、びっくりした。


まだ胸がドクドク鳴っているし、変な汗も背中に感じる。


家の近所で手を繋いで歩くなんて、かなり大胆で考え無しだった。


バレるのを恐れているくせにワキが甘すぎる。


それに私ときたら動揺しすぎてうまく誤魔化すことも出来なかった。


ほんとに私ってドジ。


次にまたこんなことがあったら、絶対バレてしまう。


これまで以上に気をつけないとって自分に言い聞かせた。


「チー、お腹すいたね」


その時彼が話をそらせるようにこんなことを言ってきた。


「うんそうだね、お腹ぺこぺこ」


すがるような眼差しで翔くんを見上げた。


私たち不自然じゃないよね。いつも通りに振る舞わないと。


彼は大丈夫だというようにかすかに頷いてくれた。
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