【完】王子様系男子の哉斗くんは、毎日会いに来る。


 トイレに向かうと、女子トイレには人だかりができていて何かが起きていることは確実だった。だから俺は野次馬ができている場所へと急いで向かった


「あの聞いてもよろしいですか?」

「……はい。え!? く、倉橋様!」


 声かけた女性は俺を見て驚いた表情をするとすぐに気まづい顔をした。明らかに動揺している。
 俺にやましいことがあるとしか思えないくらい顔が物語っていた。


「ねぇ、君。俺の婚約者、五十嵐美央見ていないかな? トイレに行ったらしいんだけど、出てこないんだ」

「えっ……ぁいえ」

「そう。嘘ついたりはしていないよね? もし、嘘だったらどうなるか分かってる? ミヤマ化粧品会社のお嬢さん」


 彼女、一度見たことがある。傘下に入っている会社の社長令嬢のはず。確かミヤマ化粧品の美山(みやま)優作(ゆうさく)社長の娘だったはず。ここで嘘を言ったらどんなことになるのかそれくらいはわかるはずだ。


「あっ、……中にいるのは、五十嵐様と葛木百貨店の社長令嬢の梨々香(りりか)様です」

「そっか、ありがとう」


 俺はそれだけ言うと人をかき分けて遠慮なくトイレに入った。そこにいたのは床に座ってる美央と、葛木梨々香がいて。


「……何をやってんだ?」


 自分でも驚くような低い声を出してしまった。それくらい怒りが溢れ出て、葛木に殴ってしまいそうになったが美央にそんなところを見せるのは嫌で一刻も早くこの場所から彼女を連れ出したかった。



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