あいにくですが、エリート御曹司の蜜愛はお受けいたしかねます。
(うそでしょ……)

頭に浮かんだ一文字(ひともじ)をもっともらしい理由で打ち消そうとしたその時、舌の奥、ほとんど喉の手前を舌先で突かれた。

「んぁっ、」

一気に腰が砕けそうなほどの強い痺れに襲われて、すぐそこにある何かを咄嗟に握りしめる。イスに座ってなかったら、その場に崩れ落ちていたかもしれない。

さすがにまずい。

(や、ダメ……今はとにかく止めなきゃ!)

わたしが『NO』と言えば、彼はすぐにこの暴挙(キス)()めるはず。そういう盟約(やくそく)

言葉に出来ない代わりに、なんとか『NO』を伝えようと拳を握り締めたところで、アキはやっと(わたし)を解放した。
わたしの口の端から垂れた唾液を、丁寧に舐め取っていくのも忘れずに。


はぁはぁと肩で息をつくわたしとは対照的に、ゆったりと腰を元の位置に戻したアキ。

どうやらアキは自分の席から伸びあがっていたようだ。そんなことすら気付かなかった。気付く余裕もなかった。

「なに―――、すんのよっ、」

メガネがない整った顔を、キッと睨みつける。するとアキは、垂れ気味の二重まぶたを弓なりに細め、悠然と微笑んだ。

「なっ!」

なにその笑顔!こっちは怒ってるんですけど!?

そう言いたいのに口は(くう)を切るばかり。そんなわたしに彼は笑顔のまま口を開いた。
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