あいにくですが、エリート御曹司の蜜愛はお受けいたしかねます。
「ぅひゃっ、」

首の後ろを何かがくすぐった。
「ジー」と微かな音と共に背筋に沿って下りていくものが、ファスナーだということに気付いてひどく焦る。

「アキっ!」

上半身を捻って逃れようとするけど、まだ腰に巻きついたままの左腕がそれを阻む。そうしている間にも、ファスナーが下げられていく。

「やっ、だめっ、」

バスルームに響くわたしの声が聞こえないはずないのに、アキの手は止まらない。
濡れた背中にすぅっと空気が触れる感覚に、ファスナーが一番下の腰まで下りきったのだと分かった。

「アキっ……やめ、」

言い切る前に、背中に柔らかく温かい感触。ぞくっと痺れて「やっ、」と短い悲鳴を上げた途端、ちゅうっ、と音を立ててきつく吸い上げられた。上げそうになる声を必死に飲み込む。

背中のあちこちで何度も何度も繰り返されるリップ音と、わたしの小さなうめき声がバスルームの壁で共鳴する。

「ちゃんと言って―――誰が好きなの?静さんは」

「っ、」

カリっと首筋に歯を立てられて、腰が抜けそうになる。歯を食いしばってそれに耐えていると、ふわりと胸の締め付けがゆるくなった。

「きゃっ、」

ブラジャーをはずされた感覚に、慌てて体を小さく折りたたもうとする。けれど腰に回る腕が、それを許してくれなかった。

「やっ、ダメっ…!」

空いた背中からスルリと忍び込んで来た手のひら。右の膨らみの下に触れるそれを制止しようと、わたしは必死。

「アキ、やめてっ」
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