あいにくですが、エリート御曹司の蜜愛はお受けいたしかねます。
『泣かないで』
そう言ったアキが、濡れた頬を長い指で拭っていく。
『泣いてない』
そう言いたいのに、戦慄く唇が邪魔をする。
シャワーを掛けられた時と同じくらい濡れそぼった頬を、アキはその綺麗な手で包み込んだ。
『それは嫌悪?それとも……』
『けんっ、お……じゃ…ないっ』
眉を下げて弱ったような顔をしたアキを、(分かってるくせに…!)という気持ちを込めて睨らみながら言うと、彼の綺麗な顔がみるみる綻んでいく。
『良かった…!』
にこにこと笑顔になった彼は、わたしの唇に「ちゅっ」と音を立ててくちづける。
わたしが目を見張って固まった隙に、彼はもう二度三度啄んでから、わたしをぎゅっと強く抱きしめた。
そうされてもなお、わたしはまだ茫然としてしまう。
アキがわたしを好き?本当に?
半信半疑の気持ちと、じわじわと湧きあがる喜びがせめぎ合う。
だってアキは、御曹司でエリートで後継者で―――。
もしかしたら今日のことは最初から夢で、わたしはまだ自分のベッドの上で夢を見ているのかもしれない。目が覚めたらあの連休最後の日で。いつものように狭い部屋の小さなベッドの上に、ひとりぼっちで……。
『何を考えてるの?』
『あ、』
頭の上から声が降ってきた声に顔を上げると、二重の垂れ目が探るように見ていた。
『またつまらないこと考えてただろ』
『っ……』
図星を指されたことが顔に出ていたのだろう。アキは『はぁ~っ』と長い溜め息をつく。『だって信じられなくて……』としどろもどろに返すと、彼は『ふ~ん』と言って、なぜだかその瞳を座らせた。
『そんなに信じられないなら―――信じさせるまで、だな』
『え?』と思った時には、わたしの唇は深く奪われていた。