あいにくですが、エリート御曹司の蜜愛はお受けいたしかねます。
(思い切って休暇も取れたわけだし、結果的には良かったのかもな)
突発的に休暇を申し出たせいで、担当秘書にはずいぶんと無理をさせてしまった。そのことだけは反省中。
もともと今回の関西出張では前乗りの予定だったから、前日の午後はスケジュールを空けてくれいていた。
けれど、それにしてもあと二日半の予定はあるわけで。
『明日から三日間、すべてのスケジュールをリスケ(リスケジュール)して欲しい』
そう言った時の、秘書課長と専属秘書の顔が頭に浮かんだ。
この三か月間というもの、事あるごとに『CMOもたまにはお休みになってください』と口にしていたベテラン秘書課長(三十五歳既婚女性)は、さすが感情を表に出さなかった。
けれど、入社七年目の担当秘書(二十九歳独身男性)が一瞬目を見張ったのは見逃さなかった。
もちろんリスケ不可能な予定が入っていないことは確認済みの申し出だ。
だけど、次に僕が言ったことに対する二人の反応を思い出して、「くくっ」と忍び笑いが漏れる。
『どうしても動かせそうにない仕事は、CEOに振って頂いても構いません』
担当秘書はポカンと口を開け、さすがの秘書課長も一瞬頬がピクリと引き攣っていた。
どこの世界に、CEOに空いた穴を埋めさせるヤツがいるんだ!
とでも思っていたんだろうな。
だけどそんなことは僕も重々承知。
そもそも、急遽発生した“休暇”は、元を正せばあのくそ親父のせいなのだ。
昨夜、自宅でのひと幕を思い出すだけで、また腹の虫が騒ぎ始めようとするのを、僕は目の前の串カツを口に入れることでなんとか飲みくだした。