あいにくですが、エリート御曹司の蜜愛はお受けいたしかねます。
メッセージの相手は【Tohmaグループホールディングス】の社員、高柳滉太(たかやなぎこうた)。

CMOの自分にとって直属の部下にあたる彼は、現在【トーマビール】本社マーケティング本部に五輪企画の統括として出向中。

そんな高柳統括、実は大学の時にお世話になった先輩でもあるのだ。

彼は大学院を卒業したあと別の企業に勤めていたが、縁あってTohmaに転職。何の因果か先輩は僕の部下になる。

公私の線引きをきっちり引くことをモットーとしている高柳統括(ナギさん)は、仕事中は一ミリもブレることのない完璧な部下。
けれど、業務が終了した途端、頼りがいのある先輩に早変わりする。

そんな不思議な関係になってから早三か月。彼のONとOFFの態度の違いにも大分慣れてきたところだ。


ナギさんは子どもの時に家庭の事情から大阪に住んでいたことがあるそうで、関西のことには詳しい。
当初はプライベートで観光するつもりもなく、どうせすぐに彼も視察出張に来るのだからと、仕事のこと以外の話はしていなかった。

初めてプライベートで訪れる関西は、希望も予定もノープラン。勢いだけで出てきたから仕方ない。

とはいえ、帰国してから初めての休暇になる。明日から三日間何をして過ごそうかと、久しぶりの自由な一人旅に心が(おど)らないわけはない。

日頃の重圧から解き放たれたことと、急な休暇の原因とが合わさって、いつもよりもずいぶんと開放的な気持ちになっていた。

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