あいにくですが、エリート御曹司の蜜愛はお受けいたしかねます。
***


テーブルの上の総菜(デリ)が綺麗に空になり、あとはビールを空けたらおしまい――というところで、アキのグラスに目がいった。

「大丈夫?無理して飲まなくてもいいのよ?」

最初の一杯目が半分も減っていない。
やっぱり“トーマラガー”は苦手なんだなぁ、と思っていたら。

「静さんが飲ませてくれたら、」

「イヤです」

秒で却下したら彼が眉を下げた。チロリと恨めしげに見られても、そこは我慢。

「今日は、ビール克服協力はおやすみです!」

ピシャリと言い切ったわたしに、アキが目を(しばた)かせる。

「今日はもう疲れたからムリ」

うっかり“口移し”でスイッチが入って、更に『もう一回』なんて言われたらかなわない。

昼間のプレゼンでメンタル削られたし、さっきの行為で体力も激減したし。
わたしのHPゲージは残り少ないのよ!

ここは断固として負けてなるものかと気合を入れてアキを見つめ返すと、アキが「ふふっ」と笑った。

「そうだね。今日は『ビール克服』はおやすみにしようか」

「え、」

いやに素直に承諾されて、こっちが拍子抜け。さっきとは逆にわたしが目を(しばた)かせる。

「今日は僕の番だね」

―――はい?

何が『僕の番』なのだろう。
意味が分からず訊ねようと口を開きかけた時、突然立ち上がったアキがキッチンの方へと行ってしまった。

冷蔵庫、食器棚、引き出しを順に開けてから戻ってきた。

「これ。一緒に食べようと思って」

そう言いながら開いた箱の中には。

「……ロールケーキ?」

「そう。このロールケーキ、美味しいって評判だから」

確かに、このロールケーキは食べたことがないわたしでも知っている。
大阪のビジネス街にあるパティスリーで生まれた、“ロールケーキブームの火付け役”とも言われるロールケーキだ。

「はい、あーん」

大きめに切ったケーキをフォークに乗せ、彼がこちらに差し出した。

< 255 / 425 >

この作品をシェア

pagetop