あいにくですが、エリート御曹司の蜜愛はお受けいたしかねます。
あーっ、ダメダメっ!
やだやだ。こんなおセンチ(・・・・)なわたし!全然らしく(・・・)ない!

柄にもなくセンチメンタルになった自分が恥ずかしくて、思いっきり頭を左右に振った。その反動で隣にあるクッションがパタリと倒れ、ガサリと紙が曲がる音が。

「あ…!やばっ!」

慌てて倒れたクッションを持ち上げ、その下にある紙袋を救出。中に入っている箱を持ち上げた。傾けないようにそっと両手で箱を持ち上げて、外側をチェックする。

「良かったぁ…箱は無事ね……」

中身は“ガトーショコラ”

わたしはやっと自分がここに何をしに来たのか思い出した。


バレンタイン前日になってやっと、そのイベントに自分も該当するのだということに気付いたわたしが、スーパーに駆け込んで選んだもの。

それが“手作りチョコレート”だ。

今からでも揃えられる材料で、わたしが作れそうなもの。
それを検索した結果が、今ここにある“ガトーショコラ”なのだ。

甘いものは、食べるのは苦手だけど作るのは別に苦手じゃない。
なんたって昔のわたしは、可愛い女の子の皮を被ったただの “チョロい女”だったのだ。これまで付き合っていた相手にバレンタインチョコを作ったことも一度や二度じゃない。

だけど、これまで付き合ってきた男たちは、大抵『甘いものは食べれるけれどそこまで好きではない』というタイプばかり。だから“生チョコレート”か“トリュフ”を作って数個渡す程度にしていた。それならわたしが味見をしても渡す分は十分にあるし、わたしも相手も“手作り”という特別感を味わえればヨシ。

だけど今回は違う。

甘いものが好きな恋人に贈るなら、それなりのスイーツじゃなきゃ。
誰でも作れるようなものじゃなくて、もっとガッツリ食べれるものの方が喜んでくれそう。

そう考えたわたしは、“ガトーショコラ”をチョイスした。

< 274 / 425 >

この作品をシェア

pagetop