あいにくですが、エリート御曹司の蜜愛はお受けいたしかねます。
「そういう静さんこそぉ、どぉしはったんですかぁ?」

「えっ、」

「静さんはぁ……本命はんがおるんちゃいますかぁ?」

「っ……」

「ちょっと前にぃ、梅田で見かけましたよぉ?」

「ど、どこで……いつ……」

「セレブなホテルですぅ。いつやったかなぁ……そうそう、前に静さん珍しくおしゃれしてはった時ですぅ。あの日のん(・・)もぉあのホテルで合コンやったんでぇ」

森が言っているのは多分アキと鉄板焼きを食べに行った時のこと。まさか見られていたなんて。

あの時のアキは完全にCMOスタイルだった。ということは―――。

「静さんって、……当麻王子とどんな関係なんですか?」

「っ、」

やっぱり。一緒に居たのは当麻聡臣(とうまあきおみ)だと気付かれていたんだ。

わたしを見つめる森の瞳は真剣そのもの。黒めがちでつぶらな子犬のような瞳が、今はわたしを真っ向から貫いている。
どこか咎めるような視線にたじろいだけれど、どうしてわたしが責められないといけないのだろうと思うと、自然と口が動いた。

「どんな関係って……別にどんな関係でも森には関係ないわ」

「………言われん関係なんや」

「なっ、」

目を見張ると、森がわたしを睨みながら言った。

「『自分は男にガツガツせん』いう顔して……そげん女が一番ヤバかと。気付かんば男を手玉に取るったい」

森が本気でそう思っているのが分かる。だっていつもの間延びした関西弁じゃない。素になった時に出るお国言葉だ。

「うちなんて………。静さんばっかり――ずるか(・・・)っちゃ!」

彼女の剣幕に一瞬息を呑む。だけどすぐ、「なんでわたしがずるいのよっ!」と言い返した。

「ずるいのはそっちの方じゃない……わたしの方が先に彼と、」

言いかけた途中で、更衣室の扉が開いて同僚達がわらわらと入って来た。
そのせいで黙るしかなくなったわたしは、森を問いただすことも出来ず、結局そのまま業務に入ることになった。


あの時、森ときちんと話をしていれば何かが変わっていたのかな。


今になってみればそう思うけれど、結局あとの祭り。


It is no use crying over spilt beer(・・・・).


後悔は先には立たないのだ。





【Next►▷Chapter12】
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