あいにくですが、エリート御曹司の蜜愛はお受けいたしかねます。
半分叫ぶように言い切った森が、ぜえぜえと肩で息をする。
うつむいて呼吸を整えていた彼女は、「だから静さんは、」と言いながら顔を上げた。
「うわっ!!またっ…!ごめんなさいっ、言いすぎました~っ!やけんいつも毒舌とか歯に衣着せんっち友達に言われとぅとにっ、」
森が焦るのも当然。再び決壊したわたしの両目から滂沱の涙が溢れているのだから。
「静さぁぁんっ」
顔を覆ってしゃくりあげるわたしの背中を撫でながら、森が情けない声を上げる。彼女はどうやら鬼の目から出るものに弱いらしい。
一生懸命にわたしのことを励まそうとしてくれる後輩に、これ以上誤解と謝罪をさせるわけにはいかない。顔を覆ったままわたしは声を絞りだした。
「ち、がうの……森ちゃんのせいじゃない……。……いた、の……」
「えっ!静さんどっか痛いんですか!?」
森らしい聞き違いがおかしくて少し冷静になる。「ううん、ちがう」と頭を振ってから顔を上げた。
「いたのよ……名前のこと褒めてくれてたひと……」
「えっ!……それって……」
「うん……アキ、当麻聡臣。……彼だけだったの……こんなわたしのこと『可愛い』って……名前も素敵だってカッコイイって……そう言ってくれてたのに……」
「静さん……」
「それなのにわたしっ……彼のこと信じきれなかった……彼は元カレとはちがうって分かってたのに……あんなひどい言葉までっ……」
涙が再び勢いを増して、わたしは嗚咽を漏らしながら両手に顔を埋めた。そんなわたしの背中を、森が大きくゆっくり撫でてくれる。
「アキ……哀しそうな顔、してたっ……わたし……彼を、傷つけたんだっ」
最後に見た彼のひどく辛そうな顔が目に浮かんで、自分がそんな顔をさせてしまったのだと思うと胸に後悔が押し寄せる。
アキは斎藤とは違うと分かっていたのに、わたしは自分が傷つくのを怖れるあまり、彼のことを傷つけたのだ。
わたしの背中をさすりながら、森が言った。
「そやったら、謝らはったらいいんですよぉ、静さん。失敗やあやまちくらい誰にだってあるやないですかぁ。静さんだってのんが失敗をしても、謝ったら許してくれはるやないですかぁ」
「で、でもっ……」
どの面を下げて彼の前に行けばいいというの?
「許してもらわれへんかもって謝りもせんで怖がっとるんはぁ、女が廃りますよぉ!それでなくてももう三十なんやさかい、ミイラになる前に何とかせな」
「ま、まだ二十九、」
「せからしか」
静かにピシャリと言われて首を竦める。だけど背中の手はずっと優しくて。森がわたしのことを本当に心配してくれていることが分かった。
うつむいて呼吸を整えていた彼女は、「だから静さんは、」と言いながら顔を上げた。
「うわっ!!またっ…!ごめんなさいっ、言いすぎました~っ!やけんいつも毒舌とか歯に衣着せんっち友達に言われとぅとにっ、」
森が焦るのも当然。再び決壊したわたしの両目から滂沱の涙が溢れているのだから。
「静さぁぁんっ」
顔を覆ってしゃくりあげるわたしの背中を撫でながら、森が情けない声を上げる。彼女はどうやら鬼の目から出るものに弱いらしい。
一生懸命にわたしのことを励まそうとしてくれる後輩に、これ以上誤解と謝罪をさせるわけにはいかない。顔を覆ったままわたしは声を絞りだした。
「ち、がうの……森ちゃんのせいじゃない……。……いた、の……」
「えっ!静さんどっか痛いんですか!?」
森らしい聞き違いがおかしくて少し冷静になる。「ううん、ちがう」と頭を振ってから顔を上げた。
「いたのよ……名前のこと褒めてくれてたひと……」
「えっ!……それって……」
「うん……アキ、当麻聡臣。……彼だけだったの……こんなわたしのこと『可愛い』って……名前も素敵だってカッコイイって……そう言ってくれてたのに……」
「静さん……」
「それなのにわたしっ……彼のこと信じきれなかった……彼は元カレとはちがうって分かってたのに……あんなひどい言葉までっ……」
涙が再び勢いを増して、わたしは嗚咽を漏らしながら両手に顔を埋めた。そんなわたしの背中を、森が大きくゆっくり撫でてくれる。
「アキ……哀しそうな顔、してたっ……わたし……彼を、傷つけたんだっ」
最後に見た彼のひどく辛そうな顔が目に浮かんで、自分がそんな顔をさせてしまったのだと思うと胸に後悔が押し寄せる。
アキは斎藤とは違うと分かっていたのに、わたしは自分が傷つくのを怖れるあまり、彼のことを傷つけたのだ。
わたしの背中をさすりながら、森が言った。
「そやったら、謝らはったらいいんですよぉ、静さん。失敗やあやまちくらい誰にだってあるやないですかぁ。静さんだってのんが失敗をしても、謝ったら許してくれはるやないですかぁ」
「で、でもっ……」
どの面を下げて彼の前に行けばいいというの?
「許してもらわれへんかもって謝りもせんで怖がっとるんはぁ、女が廃りますよぉ!それでなくてももう三十なんやさかい、ミイラになる前に何とかせな」
「ま、まだ二十九、」
「せからしか」
静かにピシャリと言われて首を竦める。だけど背中の手はずっと優しくて。森がわたしのことを本当に心配してくれていることが分かった。