あいにくですが、エリート御曹司の蜜愛はお受けいたしかねます。
「わ、わたし………謝らな、きゃ……アキに会ってちゃんと、言わないとっ……」

「その意気ですぅっ!女は度胸ですよ、静さぁん」

「ありがとね、森」

「どういたしましてぇ!でももし謝っても許してくれへんかったら……」

「かったら……?」

「そんなケツの穴の小さか男ばこっちから願い下げったい!もっとよか男ば探しに行くん、希々花が付き合っちゃるけん!」

胸の前でこぶしを握った森の鼻息が荒くて、わたしはなんだか可笑しくなった。
同じようにこぶしを握って「そうね!うん、そうするわっ!」と言った拍子に、わたしの目から涙がぽろぽろとこぼれ落ちた。


このあと森が、どうやって良い物件(・・)と出会うのか、そして自分の何をアピールすれば成功するのかなどを滔々と語っていて、それに感心したり笑ったりした。

そうしているうちに、ちょうど涙が乾いた頃、コンビニに行っていた晶人さんが戻ってきて。わたしに『食事と睡眠をしっかり取るように』と念を押した晶人さんは、森を連れて帰って行った。


そういえば、森の好きな人の話を聞きそびれたな。

ふとそんなことを思ったけれど、まずは自分のこと。
誤解してひどいことを言ってしまったことを謝らないと。

そう決意してスマホを手に取り、表示された番号をタップしようとしたけれど、直前になって手を止めた。

「そうだ……ちゃんと顔を見て謝ろう」

電話口だと、顔が見えない。
ひどいことを言ってしまったことを、きちんと顔を見て謝りたかった。
彼だって、わたしに直接謝りに来てくれたじゃない。

そうと決まれば善は急げ。わたしは取るものも取り敢えず、家を飛び出した。

幸い明日は公休日。
いつまでだって待てる。もし追い返されたとしても、いつまでだって粘ってやる。
前の時みたいに、何もせずに自分から身を引いたりなんてするもんか。



年上なめんなっ――!






【Next►▷Chapter13】
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