あいにくですが、エリート御曹司の蜜愛はお受けいたしかねます。
本社のレセプションルームでは、現在コンペの最終プレゼン大会の真っ只中。
プレゼン大会は二部制で、わたしはこれから始まる第二部の方。
自分が出場する部ではない方のプレゼンは客席で拝聴することが出来るため、わたしもさっきまでは第一部の人のプレゼンを聴いていた。
さすが全国各地の選考をくぐり抜けてきただけあって、どれもこれも本当に素晴らしい企画ばかり。
審査員席には、グループ各社の社長や重役、そしてTohmaホールディングス代表取締役社長兼CEOのお姿もあった。
そんな中で、自分の企画を発表する日が来るとは…!
今緊張しないでいつするの!?
でもそれだけじゃない。
このチャンスを逃したら、わたしはきっと一生後悔することになる。
「晶人さん」
「なんだ、静川」
発表者控室には人が少ないとはいえ、仕事中にもかかわらずうっかり名前で呼んでしまった。晶人さんがそれを咎めなかったのをいいことに、わたしは話を続けた。
「あの話……よろしくお願いします、よ?」
「あの話?ああ……行きの新幹線で言っていたやつか」
「はい」
神妙な顔で頷くと、晶人さんはじっとわたしを見つめてくる。
もの言いたげな瞳には敢えて気付かない振りをして、わたしは彼をじっと見つめ返した。
「……分かってる。心配するな、あの後おまえに頼まれた時点ですぐに手は打ってある」
「本当ですか…!」
さすがTohmaのエリート!仕事が早い。
「ああ。……だから今はプレゼンに集中しろよ。他のことに気を取られて失敗でもしようものなら、その件もナシにするからな、静」
「分かっています」
「すべてはプレゼンが終わってからだ」
真剣な顔でわたしにそう念を押した晶人さんに、わたしも負けず劣らず真剣な顔で頷き返した。
アキとはあの日から会っていない。
彼は―――わたしの前から姿を消した。