あいにくですが、エリート御曹司の蜜愛はお受けいたしかねます。
「彼はとても優秀な方です。これからのTohma(トーマ)背負(しょ)って立つのにふさわしい人物だと、一社員として僭越ではありますがそう思っています」

今度は突然、アキのことをべた褒め。
彼の優秀さを語るつもりで牽制されてる……?

やっぱり何を言われるのかと身構えてしまう。だけど、彼女が続けた言葉は意外なものだった。

「そんなCMOに、入社後浮いた話はほとんどありません」

「え、」

「とても真面目な方なので、異性関係の悪い噂などを一度も耳にしたことはございませんし、特定の相手をここに連れ込んだこともないと聞いています。……ただ、おモテになるのは事実ですので、寄ってくる女性の方も少なくはないようですが」

「……はぁ」

何が言いたいのかますます分からなくなってきた。

「ですので、本来でしたら私用の女性をこちらに通すことはしないのですが……」

え、それってやっぱり「こんなところまで何しに来てんだよ」ってことなの?

「上司が――高柳統括が静川さまをお連れする方が、きっとCMOのためになるだろうと」

「えっ!」

思ったより大きな声が出てしまい、慌てて口を手のひらで塞ぐと、なぜか青水さんから「すみません……」と謝られた。

「何が言いたいか分かりづらいですよね……わたし、こういうことって実は苦手で………」

何が苦手だというのだろう。
御曹司のところに押しかけてきた女の手引き?それとも上司の女性問題に首を突っ込むことだろうか。

上司命令で嫌々案内してきたのなら、そりゃ苦情のひとつでも言いたくなるよね。うん、分かるわ。わたしだって自分でも公私混同甚だしいと思っているもの。

嫌な役目を請け負ってくれた青水さんには、きちんと謝罪とお礼を言わなきゃね。
そう思って口を開いたが、彼女がなにやらもごもごと呟いていた。

「企画書の方が簡単」だの「わたしじゃ力量不足なのに」だのという言葉が切れ切れに耳に届く。そして「もうっ、滉太さんめ……」と恨めしげに呟いた。
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