あいにくですが、エリート御曹司の蜜愛はお受けいたしかねます。

「いやいやいやいやっ…!大丈夫じゃないよっ、取らないと後悔するかもよ!?」

「今吉野を食べない方が後悔する」

ちょっとおぉぉーーっ!
誰かこのエロドラネコ猛獣御曹司を止めてくださぁぁいっ!!

なんとかアキの手から逃れようと体を捻るけど、腰から下はガッツリと押さえられていて動かない。無我夢中で上半身を左右に捻り、両手をバタバタと動かした時―――。

「ピッ」という短い音のあと、《CMO、今よろしいですか?》と男の人の声。
ピタリと動きを止めたわたしたち。見上げると、アキは思いっきり眉間にシワを寄せている。
どうやらわたしの手が当たって、“スピーカーホン”がオンになったようだ。

良かった…!天の救いだ!
そう思ってホッと胸を撫で下ろした―――のだけれど。

「むんっ、」

彼がわたしの上半身に再び圧し掛かり、唇を合わせてきたのだ。

ちょ、ちょっと!それじゃ電話に出れませんよーー!!

もがもが(・・・・)と抵抗するわたしの声は、彼の咥内に呑み込まれて行く。

くぅ~っ、これじゃわたしが代わりに返事をすることも出来ないじゃないかぁ!!

わたしたちの無音の応酬の上から、《CMO、聞こえてらっしゃいますか?》と男性の声が訊ねる。
なのにアキは、わたしの口を自分のものでガッツリ塞いだまま、一向に電話に出ようとしない。

さては……!電話が切れるのを待ってるわね!!

再びのピンチに焦るけれど、巧みなディープキスにあっという間に抵抗力が削がれていく。
電話機は《CMO……?》と怪訝そうな声がしたあと、しばらく沈黙した。

もはやこれまでか……!

そう思った時。

《CMO―――そこにいらっしゃるのは分かっています。CEOから『今すぐ来るように』と言付かっております。もしこの電話にお出にならない場合は、問答無用でそこを開けますが、構いませんか?》

えぇっ!鍵が掛かっているんじゃないの!?

驚愕に目を見開くと、男性が続けて言った。

《CEOから合鍵の使用許可は頂いております》

< 356 / 425 >

この作品をシェア

pagetop