あいにくですが、エリート御曹司の蜜愛はお受けいたしかねます。

その言葉に、アキがやっとわたしの口を離したかと思うと、すぐさま「チッ」と舌打ちをした。

えぇーっ!舌打ちとかしたよ、この御曹司!

だけど今のわたしはそんなことに構っている場合じゃない。
ブラウスもブラも豪快に(はだ)けているし、スカートも半分くらい上にたくし上がって、ストッキングは床に落ちている(はず!見えないけど)……。もっと言ったらショーツだって…やだダメっ、皆まで言わせないでっ!

とにかく、こんなあられもない姿を他人に見らでもしたら、羞恥と情けなさで恥ずか死ねる!
もう一生お嫁になんて行けないわよ……ていうか、行ってあげないんだからっ!!

そんな心の叫びを人生最大レベルで込めて、アキをきつく睨みつけた。

すると彼は、「ふぅ~」と長い溜め息をついたあと、わたしの上から退き、電話機に手を伸ばした。

「はい」

彼が受話器を取ったのを見て、すかさずデスクから降りる。そしてデスクの陰にしゃがんで着衣を整えた。

頭の上からはアキが「え……、どういうことですか」と言う声。

何かあったのだろうかと気にはなりつつも、わたしは自分の身なりを整えることで精いっぱい。万が一今ドアが「ガチャッ」と開いたら、と思うと気が気じゃない。

なんとか体裁を保てる程度には衣服を整えられた時、アキの声が耳に飛び込んで来た。

「え、彼女も一緒に――ということですか……」

えっ…!なんだか聞き捨てならない言葉が聞こえたような……。

アキの方を見ると、彼も同じタイミングでわたしを見た。バッチリと目が合う。彼は受話器を耳に当てたままわたしに頷いて見せた。

「分かりました。ではこれからそちらに伺いますと、CEOに伝えてください」

彼はそう言うと静かに受話器を下ろし、ゆっくりとわたしの方へ顔を向けた。
さっきまでの熱はどこへ―――というような冷静沈着な瞳。

嫌な予感がする。

アキが口を開く瞬間を、ゴクリと生唾を飲み込んで凝視した。

「静さんごめん。呼び出しだ」

固唾を呑むわたしに、アキは淡々とそれ告げた。

「あなたと一緒に来るように、と。―――CEO(じょうし)命令だ」





【Next►▷Chapter14】
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