あいにくですが、エリート御曹司の蜜愛はお受けいたしかねます。
「彼女を愛するあまり、彼女が亡くなった悲しみに周りが見えなくなっていたのだ。私のせいでおまえと美寧にはずいぶん辛く寂しい思いをさせてしまった……すまない」

「父さん……僕は別に、」

「いや。父親としての私は、本当に不甲斐なさ過ぎる。あっちに言ったら(さや)に叱られることは、とっくに覚悟しているよ」

そう言って「ふっ」と微笑んだCEOの顔は、せつなげでもあり、とても幸せそうにも見える。

「あの頃は幼かった自分には本当の意味での理解は出来ていませんでしたが、今なら少しは分かります。愛する人を永遠にこの腕に抱きしめることが出来なくなる辛さが」

「そうか……」

「ですが、数十年後にあっちで母さんに叱られるまでは、父さんにはまだこちらで頑張ってもらわないと」

「ああ、そうだな」

「父親としてのダメだったところは、おじいさまとして取り返せばいいんじゃないでしょうかね」

「―――は?」
「―――え、」


CEOとわたしの声が重なった。

ちょっと、アキ……それってどういう―――。

「というわけで、僕たちはそろそろ」

わたしを抱え上げたままそう言ったアキが、CEOに背を向けドアの方に向かう。

ちょっとーーっ!今の言い方じゃ、まるで“デキてる”みたいじゃない!
CEOに誤解されてたらどうすんのよ……!

「―――静川さん」

背中から投げられた声に、ビクリと肩が跳ねる。

ほら見なさいよ!勘違いしたCEOに、問いただされるじゃないか……。

わたしを抱えたままアキはドアの手前で足を止める。いつのまにか立ち上がっていたCEOと目が合った。

真っ直ぐにこちらに向ける真剣な瞳に、胸が大きく跳ね上がった。アキの腕から降りようとした、その時―――。

「息子を――聡臣(あきおみ)をよろしくお願いいたします」

そう言って彼はこちらに向かって深々と頭を下げたのだった。





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