あいにくですが、エリート御曹司の蜜愛はお受けいたしかねます。
Epilogue*王子様の愛はお受けいたしかねます。
さわさわと、何か細く柔らかなものが頬をくすぐる。
不快じゃないのに身を捩らずにはいられない感覚に、眠りの淵から否応なしに意識が引き上げられた。
(んんっ……くすぐったい……)
顔を少し逸らしたのに、それは追いかけるようについてくる。目を閉じたままそれに触れると、柔らかな毛先が手のひらをくすぐる。指の間までもくすぐるふわふわの触感が心地好くて、そのまま手を往復させてみた。
(これって………)
一瞬頭の中に、実家で飼っているチンチラシルバーのハルが思い浮かんだ。けれどわたしは、即座にそれを打ち消した。
だってわたし、ゆうべは―――。
『あなたに会いたくて、堪らなかった』
『会えなくて死にそうだった……もう二度と離さない。今夜はそれを分からせるから』
まぶたの裏に映し出され生々しい映像を打ち消すように、わたしは勢いよくまぶたを上げた。
思った通り。目の前にはビスクドールのように綺麗な男が眠っている。
「アキ……」
音には出さず呟くと、長いまつげがピクリと震える。
(やばっ、起こしちゃった!?)
じっと息を詰めて見つめるが、まぶたが持ち上がる様子はない。
良かった、とホッと息を吐き出した。
(疲れてる…わよね……)
長いまつげで覆われた目元は、ほんの少し隈が出来ている。
さすがの彼も、イギリスから帰国してそのまま本社のプレゼン大会を観覧した上に、CEOからの呼び出しもあって疲れたのだろう。
本来なら出張期間がもう少しあったところを、かなり前倒しで仕事を片付けて帰国したと言っていた。