あいにくですが、エリート御曹司の蜜愛はお受けいたしかねます。
綺麗な顔をクシャリと潰して笑う顔は可愛いけれど、こっちは居た堪れない。「ちょっと!」と言いながらこぶしを振り上げて殴る真似をしようとしたら、手を取られてぎゅっと握りしめられた。

「それでこそ僕の吉野。未来のTohmaCEO夫人だ」

CEO夫人って…!

そりゃそうか。アキはTohmaの後継者。いずれ彼がCEOになる。
アキのプロポーズを受けるということは、その彼の妻になるということだ。

何も考えずに返事をしたけれど、さすがにちょっと不安になった。私に務まるのだろうか。

「大丈夫、僕がいる。だけど吉野ならきっとどこに居て何をしても、そのままで十分素晴らしい奥さんになる。どんな時だってあなたはあなたらしく、僕のそばに居てくれるだけでいいんだ」

「そばに居るだけ……?べったり?」

それはちょっと無理じゃないかな……お互い仕事もあるし、自分の時間だって欲しいよね?
難しい顔になったわたしを見て、アキがまた小さく笑いを噛み殺す。

「四六時中そうしたいところではあるけど、正確にはこっち」

そう言ってわたしの膨らみをシーツの上から軽くノックした。

「心がそばにあれば、物理的な距離は関係ない。あなたの心の中の大事な場所に、いつも僕を置いてくれる?」

「心の中の大事な場所に……。それってアキも?わたしのこと、そこに置いてくれるの?」

「ああ。僕の中の一番大事な場所は、とっくにあなたのものだ……これからもずっと」

溶けかけのチョコレートみたいな瞳で微笑まれて、胸がキュンと甘く鳴く。
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