あいにくですが、エリート御曹司の蜜愛はお受けいたしかねます。

“大好きな人の大事な場所を、永遠に自分が占拠する”

なんて甘やかで、なんて素敵なことなんだろう。

年を取っておじいちゃんおばあちゃんになっても、お互いのことをそんなふうに想い合えたら最高に幸せ。

わたしがぽうっと呆けたようになっていると、アキは握っていたわたしの手の甲にそっと唇を押し当て、そのまま視線だけこちらに寄越した。

目尻に向けて下がる甘い瞳が、真っ直ぐにわたしを射抜く。

「僕の愛は重いよ?でもあなたにはそれを受け止めて欲しい。永遠に注ぎ尽くすことを誓うから」

せつなげに細められた瞳が、『あなたが欲しい』と語っている。

そんなふうに好きな人に甘く乞われて、『ダメ』と言える女の子がいるのだろうか。少なくともわたしには無理。

林檎が樹から落ちるように頷きかける。けれどすんで(・・・)のところで留まった。


―――ちょっと待て。


これから何十年も一緒にいるってことは……最初が肝心じゃない?

“しつけ”……大事よね!?


「遠慮しとくわ。王子様のご寵愛なんて、わたしには荷が重すぎるもの」

これでもかというくらいの真顔(・・)でそう言うと、アキが「えっ」と両目を見張る。わたしは彼が何か言うより早く、言葉を繋げた。

「だけど拾ったドラネコのことは生涯愛することを誓うわ。言ったでしょ?逃げたくなっても逃がさないって。女に二言はないの」

垂れ目を丸く見開いた顔が可愛くて、耐え切れず「ふふふっ」と笑う。目も口もすべてがゆるんでしまったから、もう真顔に戻せそうにない。

わたしは全開の笑顔のまま、固まっているアキに顔を寄せた。

「だから大人しく一生わたしのものになってね―――ドラネコ御曹司くん」

大きく見開かれて行く甘く綺麗な垂れ目を見ながら、わたしは彼の唇に自分のものを重ねた。








【Fin.】
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