神獣の国への召喚 ~無自覚聖女は神獣を虜にする~
 まったく話についていけずに、興奮気味にニヤニヤしている浩史の肩をつかんで事情説明を要求する。
「は?涼奈、お前分かんないの、ほら見てみろよ」
 浩史が空を指さす。
「え?太陽の周りに白い月が……3つ?」
「そうそう、それにほら、あそこに飛んでる恐竜みたいなの飛んでるだろ」
 言われてみれば、遠くの空に大きな翼を広げたプテラノドンのような影が見える。
「きょ、恐竜?」
「恐竜っていうと古代みたいだけど、俺たちがいるのは人工的に切り開かれた道でわだちもあるから文明のある時代。恐竜じゃなくてあれはモンスターって呼ぶのが正解だろうな。ワイバーンってやつじゃね?」
 浩史が自信満々に答える。
「トラックにひかれたわけでもないし死んでもないから転生ではない。穴に落ちるみたいなきっかけもないから転移でもなく、異世界召喚じゃないかな。勇者様この世界を救ってくださいってアレ。ふふふ、俺が、勇者かぁ」
 何を、浩史が言っているのか半分も理解できない。
 ただ、今いるところは、どうやら地球ではない別の世界……。本当に、異世界のようだっていうこと……それだけは、分かる。

「じゃあな!」
 浩史が浮足立った様子で、踵を返して南へと続く道……太陽のある方を南と仮定して……を進んでいく。
「ちょっと、待って、異世界って、どうやって帰るの?」
 浩史が振り返って眉根を寄せる。
「知らねぇし、俺は帰る気ねぇし。チート能力でハーレム世界だぜ?っていうか、俺についてくるなよ?助けてとか言われたって助けねからな?」
 は?
 ハーレム?何を言ってるの?
「婚約破棄したんだから、赤の他人。お前みたいな婚約者がいたって過去さえ恥ずかしいから近づくな。声をかけるな。誰かに俺と知り合いとかも言うな、お前はあっちに行けよ。俺の人生これ以上邪魔するなっ!」
 はぁ?
 私が、いつ浩史の人生を邪魔した?
 はぁ?何言ってるの?本当に、わけが分からないっ!
 こっちこそ、二度と浩史の顔なんて見たくないっ。
 ぷいっと浩史に背を向けて北へと歩き出す。
「ああ、そう、俺は親切だから、一つアドバイスしてやるよ。いわゆるお前、勇者の俺の召還に巻き込んじまったんだろうし。見殺しにしたと思われても寝ざめが悪いからな。とにかくギルドに行け。じゃぁな!」
 浩史の言葉に返事を返さずそのまま速足で歩きだす。
 延々と伸びる道。
< 3 / 126 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop