年上王子の不器用な恋心

テーブルを挟んで反対側にいた千尋くんが私のそばに来て座った。
えっ、と思った時には千尋くんの顔が近づき唇を塞がれていた。
一瞬のことで、いったい何が起こったのか分からなかった。
すぐに離れた唇は、今の出来事は気のせいだったのかなと思うほどだ。
でも、確かに私の唇に千尋くんの唇の感触が残っている。

「気持ちが伴わないキスならいくらでもしてやる」

気持ちが伴わない?
何を言われているのか分からず、目の前の千尋くんを呆然と見つめる。

「あゆはそれで満足なんだろ」

千尋くんは顔を歪めて言い放つ。

満足?
そんなわけない。
私はそんなことを望んでいない。
私はただ、好きな人と触れ合ったりしたかっただけだ。

そこであることに気づいてしまった。
バカだ、私は。
よく考えたら私は千尋くんから好きだと言われていない。

付き合ってみるかと言われただけで、千尋くんの気持ちを聞いていない。
付き合えることに浮かれていて、肝心なことを聞いていなかった。

もしかして、お父さんたちに結婚を前提にと言ってくれたのも、千尋くんの本心からじゃなかったのかもしれない。

一度、悪い方へ考えてしまったらもう止まらない。
どんどん悪循環に陥っていく。
< 101 / 134 >

この作品をシェア

pagetop