年上王子の不器用な恋心
千尋くんは、私のわがままを受け入れてくれただけなんだ。
付き合っていても、そこに千尋くんの気持ちは一切なかったんだろう。
そっか、千尋くんは私にそのことを気づかせる為にキスしたのか……。
私を見つめる千尋くんの冷たい視線が怖い。
胸が張り裂けるように痛く、今にも涙がこぼれ落ちそうになるのを必死に堪える。
「千尋くん、ごめんね。私の気持ちを押し付けるばかりして肝心な千尋くんの気持ちを無視していた」
私はそう言うとバッグを手に立ち上がった。
千尋くんは微動だにせず、じっと私を見つめている。
「私は本当に千尋くんのことが大好きだった。でも、千尋くんにとってはその気持ちも迷惑だったよね。お母さんたちの期待に応えられないのは申し訳ないけど、許嫁の話は解消してもらうね。散々、千尋くんを振り回してごめんなさい。もう二度と千尋くんの前に現れたりしないから安心して。今まで私に付き合ってくれてありがとう」
一気に言い終わると、私は玄関に向かって駆け出した。
背後で私の名前を呼ぶ千尋くんの声が聞こえた気がしたけど、空耳だろうと思い、マンションをあとにした。