年上王子の不器用な恋心
「悔しいって……何言っているんだよ」
「だって、いつも千尋くんは余裕な顔して平然としているでしょ。少しぐらいは私のことで頭の中を一杯にしてほしい」
想いが通じあったからこそ言える言葉だ。
以前だったら、絶対に言えない。
「あのなぁ、俺だってそんなことないって今回の件で分かっただろ。部屋は荒れ放題になるし、あゆのことになると平然となんてしていられない。あの内藤に牽制するぐらいにな」
そう言われ、ここに来てからのことを思い出した。
前に来た時には綺麗に片付けられていたのに、今日は洗濯物やゴミがそこらじゅうに落ちていて、部屋が汚れていた。
千尋くんでもこんな風になるんだと驚いたほどだ。
私の存在がそうさせたのかと思うと、嬉しいようなくすぐったい感じがする。
「ほら、そろそろ帰るぞ。あゆの両親に説明しないといけないから」
千尋くんが手を差し出してきた。
私はその手を握り、立ち上がった。
部屋を出てエレベーターに乗り込むと、ふと、ここへくる前に千秋くんに言われた言葉を思い出した。
『結婚を前提に付き合うと相手の親に言うなんて、よっぽどの覚悟がないと出来るものじゃない。兄貴がその言葉を口にするってことは、あゆの人生もすべてひっくるめて守っていくという誠意の現れたと思う。それだけ、重い言葉だぞ』
そういえば、最初から千尋くんは私の親のことを気にしてくれていた。