年上王子の不器用な恋心

実は先週、婚姻届けを出しているので私たちは夫婦だけど、まだその実感がない。
結婚式が終わり、新婚旅行から帰って来てから一緒に住むことになっている。

「あら、お父さんがやっと帰ってきた」

お母さんが控え室のドアから入ってきたお父さんを見て言う。
お父さんはトイレに行っていたのか、さっきからここにはいなかった。
てっきり、控え室に入ってから椅子に座るんだろうと見ていたら、千尋くんの方に歩み寄った。

「千尋くん、あゆのことをよろしくお願いします」

そう言って深々と頭を下げているお父さんの姿を見て胸がキュッと締め付けられ、目に涙が浮かんできた。

「はい。お義父さんとの約束はしっかりと守ります」

千尋くんは力強く頷き、お父さんは満足そうに笑っていた。

「あゆちゃん、千尋のことをよろしくね」

「はい。こちらこそ、よろしくお願いします」

私が涙を我慢しつつ言うと、千尋くんのお義父さんと杏奈さんが微笑んだ。
ここへきて、千尋くんと結婚して家族になるんだと実感がわいてくる。
今日は涙腺が緩く、少しのことでも涙が出てきそうになる。
そんな私を見たお母さんが声をかけてくる。

「あゆ、せっかく綺麗にしてもらったんだから泣いたら駄目よ。お化粧が取れて大変なことになるわよ」

「そうよ。私なんて泣きすぎてつけまつ毛が結婚式の途中に取れちゃったんだから。それで、慌てて付け直してもらったのよ」

杏奈さんの実体験がおかしくて涙が引っ込んだ。
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