年上王子の不器用な恋心

「あゆちゃん、すごく綺麗だわ」

新郎新婦の控え室にやってきた杏奈さんがうっとりと目を細めて言う。
今は一ノ瀬家と高柳家の六人が控え室にいる。

「うちは男ばかりだったから、綺麗に着飾ったり出来なかったのよね。身長は馬鹿みたいに二人とも高いし、可愛げの欠片もなかったんだから」

「おいおい、母さん。息子に対してそれは酷いだろ」

黒のスーツ姿の千秋くんがすぐさま突っ込みを入れる。

「何よ、本当のことじゃない。でも、やっとあゆちゃんがお嫁さんに来てくれるなんて嬉しいわ」

「やっと私たちの願いが叶う日が来たわね」

「そうね。長かったわ」

お母さんと杏奈さんがしみじみ言う。
この二人の約束がなかったら、私は千尋くんと巡り合えなかったんだと思ったら感慨深い。

「馬子にも衣装ってこのことだな」

千秋くんが私を見てクスッと笑う。
ムカつく!
確かにドレスに着られている感は拭えない。
しかも、メイクだって普段と全然違う。
つけまつ毛なんて今までやったことがないから、違和感しかないし。

「こら、千秋!あんたはいつも悪口しか言わないんだから」

杏奈さんに注意され、千秋くんは肩を竦めた。
高柳家ってお義父さんは物静かな人だから、きっと千尋くんは父親に似たんだろう。
その千尋くんはどこにいるんだろうと控え室を見回すと、ドア付近に立てっていた。

シルバーのフロックコート姿の千尋くんと視線が合った。
ヤバい。
滅茶苦茶かっこいい。
千尋くんが私の旦那様なんだと思うだけで、ニヤニヤしてしまう。
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