私が素直になったとき……君の甘過ぎる溺愛が止まらない



「……政輝さん」


「はい」


「……僕も……いいですか」


「何をでしょうか」


「……立候補……しても」


「え……」


「遥稀の……恋人……に」


「松尾様……」


「とはいっても、まだ遥稀に想いを伝えていないんですけど」


 言ってしまった。

 政輝さんに。
 俺の気持ちを。


 政輝さんの気持ちを知って。
 自分の気持ちに気付いた。

 自分の心の奥底に眠っていた気持ち。

 というより。
 もしかしたら。
 気付いていたのかもしれない。
 政輝さんの気持ちを知る、もっと前から。


 今回のことが気持ちをはっきりさせてくれたことは確かだけど。


「わかりました。
 お互い正々堂々と、ということでいきましょう」


「ありがとうございます、政輝さん」


「僕はフェアじゃないことは好きではないだけです」


 政輝さんは、ちゃんと正面から向き合ってくれる。

 そういう人、すがすがしくて、とても良い。


「あっ、政輝さん」


「はい」


「客だから気遣ってくれているのはありがたいですけど、
 僕のことを『様』で呼ばなくていいですよ」


「わかりました。
 松尾さんも僕のことは『さん』で呼ばなくて構いません。
 僕の方が一回り年下ですので。
 あと、できれば丁寧語もなしでお願いしたいのですが……」


 えっ⁉
 一回り年下⁉

 話し方とか、すごく落ち着いているから、そんなにも年が離れているとは思わなかった。


「わかった。
 じゃあ、政輝くん、また店に来るね。
 あっ、これは立候補とは関係なく」


「わかりました。
 お待ちしております」


「それじゃあ、また」


「はい」


 政輝くんに見送られ。
 俺は再び歩き出した。

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