私が素直になったとき……君の甘過ぎる溺愛が止まらない



 松尾にマンガを返す当日。


 午前の仕事を終え。
 待ち合わせ場所の公園にいる。

 その公園は。
 亜南くんと一緒に歩いた、あの公園。

 その公園で松尾と待ち合わせ。

 なぜだろう。
 なんだか。
 少しだけ複雑。



「遥稀」


 そんな気持ちでいると。
 松尾の声が聞こえてきた。


 こちらに向かって来る、松尾。

 一歩、また一歩。
 近づくにつれて。

 なぜだろう。
 増してくる。
 ドキドキが。


「ごめん、遥稀。
 待った?」


 目の前に来た、松尾。


「私も今来たところ」


 不思議。

 こうやって。
 松尾と待ち合わせて会っている。

 思ってもみなかった。
 松尾と関わりを持つなんて。

 松尾に再会するまでは。


「あっちに車を止めているから行こう」


 車、で来ているんだ。


 松尾の車。

 緊張、する。
 乗るんだ、と思うと。



「どうぞ」


 松尾が助手席のドアを開けてくれた。


「ありがとう」


 そう言って助手席に座る。

 それから運転席のドアが開き。
 松尾が運転席に座った。


 ……緊張……してきた。

 車という狭い空間で。
 松尾と二人きり。

 バーや本屋で話した。
 そのときよりも。
 もっともっと増して。


 ……私。
 できるだろうか。
 耐えること。


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