お嬢は若頭のぜんぶを知りたい。
ここにいて、盗み聞きなんてしてはだめ。
早く行かなくちゃ。
……そう思っても、足が動かない。
つい、お父さんがした質問の答えを気になってしまう。
息を潜めて立ちどまっていると、次に耳に届いたのは。
「……俺は、お嬢のことを家族のように大切に思ってますよ」
碧の声。
すぐに、聞かなければよかったと後悔した。
「……ほう。それはつまり、恋愛感情はないと?」
「……ないです」
お父さんの質問に、確かに答えた碧。
頭が、真っ白になった。
石になったかのように動けなくて……、涙だけがこぼれ落ちていく。
わたしのことを家族のように大切だと思っていて、恋愛感情がない、ということは……これは、フラれたも同然。
……告白する前にフラれた。
碧の気持ちを知ってしまった。
今まで碧になにかを期待していた自分が恥ずかしい。
少しでも、碧ももしかしたらわたしと同じ気持ちかも……なんて思った自分が恥ずかしい。
涙がぽたぼたとこぼれ落ちれば、やっと足が動いて。
すぐに自分の部屋に戻り、ベッドに寝転んだ。