青いチェリーは熟れることを知らない② 〜春が来た!と思ったら夏も来た!!〜
 互いの鼓動が高鳴って、いつのまにか同じリズムで時を刻んでいるかのような一体感にふたりは、あたため続けたこの恋が実ったことを身を以て実感していた。
 急速にスピードを落としたエレベーターが、目的の階に到着したことを知らせるアナウンスを流した。

「……っ」

 長いような短いような口づけが名残惜しくも終わりを告げて。
 わずかに離れた唇の間で瑞貴とちえりは幸せそうに微笑みあう。

「幸せ過ぎて……俺どうにかなりそうだ」

「私もです」

 ちえりの手首あたりに触れた瑞貴の手が下へとおりてきて。
 きゅっと握りしめられた手に込み上げてくる愛しさと幸福感が胸にあふれて口から飛び出しそうになる。

(瑞貴センパイ……大好きっっ!!)

 エレベーターから部屋までの短い道のりまでも、相思相愛のふたりが愛を深めるには十分な距離だった。
 お互い片想いだと思い込んでいた時間があまりにも長すぎて。
 やっと想いが通じ合ったふたりの距離はいとも簡単に溶け合って熱を帯びる。

――ガチャッ

 玄関のドアを入ったちえりを待ち受けていたのは、冷めやらぬ瑞貴の熱い口づけだった。

「……んっ」

 呼吸も整わぬうちに二度、三度と繰り返される深い口づけに息が上がる。

「はぁっ……ごめんな。風呂いれてくる」

 唇を離した瑞貴はそう言うとちえりの頬に優しくキスして距離をとるが、向けられる視線がどこまでも甘い。

「センパ……」

「~~~っ! 待った!! いまはこれ以上近づかないでくれ」

 耳まで赤く染まった瑞貴が逃げるようにちえりの視線から逃れてバスルームへと吸い込まれていく。

「あ……」

(ひゃぁああっ!! ……あんな瑞貴センパイ初めて見たっ!!)

 夢見心地なちえりは、見てはいけないものを見てしまったとばかりにバッグを落として立ち尽くす。
 この幸せ過ぎる幸せを誰に報告しよう!? と、真琴や真琴や真琴の顔ばかりが浮かんでは消えて、その次は――……と考えたところで突如現実に引き戻される。

(でも……会社は……)

 三浦が瑞貴へ好意を寄せているのはちえりの目からも明らかだ。
 結果としてずっと両想いだったのだが、自分に自信がなく片想いの時期が長かったちえりだからこそわかる。大好きなひとが……誰かのものになってしまったという絶望感は計り知れないものだからだ。 


(……隠すっていう表現が正しいかわからないけど……毎日が灰色になるよりはいいよね……)


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