青いチェリーは熟れることを知らない② 〜春が来た!と思ったら夏も来た!!〜
 ――とある日の朝。フェニックス本社上層階の一室にて。


「夏のレクリエーションの参加者ですが、各支店の新入社員はほぼ全員参加という回答が返ってきてます」

 夏杷涼子は今日も切れ長の瞳に私的な感情を一切捨てた彫刻のように整った顔で、画面に映し出された情報を周囲の人物へ的確に伝えていた。

「うんうん、いいねいいね。皆成長して戻ってきてほしいね」

「……若葉ちえりは?」

「わか……ば、ちえり? さんとは、どなたで……」

 はて? と記憶を辿り、瞬きを繰り返した仲人氏の言葉を遮り、夏杷涼子の声が割って入った。

「彼女は契約社員ですので、新入社員を対象とした夏のレクリエーションの対象ではありません」

「あ、あー……桜田君の……」

「あいつは根性が足りないからな。俺は若葉ちえりを夏のレクリエーションに参加させることを提案する」

 ちえりにバーコードさんと陰ながら命名されてしまった仲人氏は、熱々のお茶を口に運ぶ途中で異国の血を感じさせる眉目秀麗な青年の発言に驚き二、三度瞬きを繰り返して進言する。

「……え!? だ、だけどね、契約社員の子が特別参加というのは前例がないからね……?」

「私も仲人専務の御意見に賛同します。聞きは良いですが、レクリエーションと言う名の修行ですので、本当に根性が足りないとおっしゃるなら参加させるべきではないと思います。毎年離脱者も多いと聞いておりますので尚更です」

 誰もが想像する楽しい交流会のイメージが大きいレクリエーションだが、彼らの会話から想像するに何やら怪しい匂いが漂っている。

「ここからの推薦枠で参加させろ。普通に面接したって入れるわけなかったあいつにはそれくらいやってもらわねぇとな?」

 ニヤリと笑った青年に彼らは反発することも出来ず、夏杷涼子が光の速さでタイピングを済ませると……画面の最後には"上層部推薦枠:若葉ちえり"と参加者リストに彼女の名前が刻まれたのだった――。

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