魔法の恋の行方・キスって何?(シリーズ1 オルロフとエリーゼ)

湖のほとり・小屋・夜(9-15)ページ

<湖の畔の小屋・18時30分>

外はもう暗い。
木々の影が濃くなっていた。
妖精はろうそくの明かりを灯した。

「ああ、夢中で話していたら・・
暗くなっちゃった。どうしよう」
妖精は、少し心配げに言った。

「もう少し、俺は君の国の話を聞きたいな。とてもおもしろい。
いろいろな国をまわったが、
一番ヘンテコだ」
オルロフは笑った。

この妖精は本当にかわいらしい。
ずっと見つめていたい。

「私も・・こんなにグスタフの人と喋ったのは初めて。
遠くで見たことはあったけど。
あなたがうらやましい。
ああ、私もいろいろな所に行ってみたい」

妖精は頬杖をついて、グラスの縁を指先でなぞった。

オルロフは思った。
この妖精の笑顔が見られるなら・・どんな事だって・・・

「君さえよければ、俺が連れて行くよ。美しい場所もたくさん知っている」
妖精がオルロフの顔を見た。
「本当に?」
「誓うよ」

オルロフは続けた。
「それに君の気持ちもわかる。
全然知らない相手と・・つまり・・交尾をしなくてはならないなんて
俺だって嫌だ。
義務っていうのがおかしいよ」

「・・・あなたっていい人ね」
妖精は花のように笑った。
本当にきれいだ。
オルロフは見とれた。

金の髪がろうそくの明かりで
きらきら宝石のように輝く。

「みんな言うのよ。当たり前の事だって。
でも、これからの事を考えると・・不安で・・
不安を紛らすためのお薬なの。
これは・・」
妖精は薬草リキュールをつぎ足し飲んだ。
 
その様子を見てオルロフは言った。
「そんな時は俺たちの国では
<ハグ>をするんだ。
怖い時とか、心配な時。親はこどもにはよくやるよ。
あと、久しぶりに会った友達にもね。
家族や親せきでも、挨拶のひとつとしてやるんだ」

この妖精は異界の住人だ。
自分の国のやり方が、通用しないかもしれない。
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