双子を身ごもったら、御曹司の独占溺愛が始まりました
「もういい加減見ているだけの片想いは卒業しなよ。二年間、挨拶程度しかしたことがなくて、彼の名前もなにも知らないんでしょ? 私が旦那に一目惚れした時は、その直後に名前と連絡先を交換したんだからね?」

「それはわかっているけどさ」

 公佳は大学一年生の夏、野外フェスに参戦した際に今の旦那様に一目惚れ。彼女の言う通り、その日のうちに連絡先を交換して猛アタックを開始した。

 相手は十歳も上の社会人だったのにもかかわらず、公佳は「絶対に彼は私の運命の人!」と言い続けていて、その想いは旦那様にも届き、公佳が二十歳の時に入籍したのだ。大学を卒業後は多忙な旦那様を支えながら、家事の合間にカフェで働いている。

 そんな公佳から見たら、二年もうじうじと片想いしている私にヤキモキしているのだろう。

 彼との出会いは、私がバイトを始めて二年が過ぎた頃だった。やっと先輩からお客様に提供する珈琲を淹れることを認められた日だった。

 ちょうど今の頃の時間にひとりで来店した彼は、珈琲を一杯注文した。オーダーが入り、緊張で震える手で珈琲を淹れたことを今でもはっきりと覚えている。そして私が淹れた珈琲を飲んで、少しだけ口元を緩めたことも。

 それから私にとって彼は特別なお客様となった。先輩も彼が珈琲を注文すれば、必ず私に淹れさせてくれている。
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