官能一夜に溺れたら、極上愛の証を授かりました
 シャワーを浴びて出て来ても、美海はまだぐっすりと眠っている。ただでさえ仕事で疲れているのに無理をさせたのだ。ゆっくりさせてあげたい。

 上質な絹のように触り心地のいい美海の黒髪をそっと撫でながら、出逢ってからの日々を反芻する。


 美海と出会った頃、現社長である父親から『近いうちに代替わりを考えている』と告げられた。

 観光地の温泉旅館経営から出発し、今や日本国内のみならず、海外でもリゾート施設の開発、運営を手掛ける『エテルネル・リゾート』。父親が興したこの会社で常務取締役を務める俺は、次期社長候補の中に名を連ねている。

 父の中では、跡継ぎは俺と決まっている。しかし周りの親戚連中や重役の中にも、社長の座を狙っている奴はいる。いつ罠を仕掛けられ、その座を奪われるかわからない。

 猜疑心が強まる中、プレッシャーもあり、俺はなかなか寝付けない日々が続いていた。

 しかし、近い将来会社を背負って立つ身である以上、揺らいでいる姿は誰にも見せられない。それなのに、会ったばかりで、ほんの少し言葉を交わしただけの美海にあっさりと自分の状態を見抜かれ、本当に驚いた。

 職業柄なのかもしれないが、美海はよく人のことを見ている。しかし言葉も行動も決して押しつけがましくない。そんなところに好感を抱いた。


 その夜、彼女といた空間の心地よさが忘れられなくて、俺は理由を見つけては彼女の元へと通うようになった。

 適度な距離とさりげない思いやり、そして時折見せるはにかんだ笑顔にいつの間にか心惹かれ、どうしても彼女が欲しい、そう思うようになっていた。

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