官能一夜に溺れたら、極上愛の証を授かりました
「そんなことない。それに、貴斗のことはどうするんだ」

「どうもしない。これまで通り、私が育てるわ。私達はこの島でずっと暮らすのよ」

「せっかくまた会えたのに、何言ってるんだ。家族が離れ離れに暮らすなんてダメだ!」

「それならば、最初から私と貴斗はいなかったことにして」

 呆然としている貴裕さんの両手を外して立ち上がる。

「貴斗の事が心配だからもう戻るわ」

 俯いていた貴裕さんが、顔を上げた。

「そう言えば、俺が諦めると思った? そんなわけないだろ」

「……貴裕さん?」

「俺は美海が欲しいんだ。貴斗のことだって、大事に思ってる。ふたりとも片時も離したくない」

 彼の熱っぽい瞳に見つめられ、あっと思った時には、彼の腕の中に引き戻されていた。体ごと閉じ込められ、私は身動きもできない。

 もっと、物わかりのいい人だと思っていた。私が知る貴裕さんは始終穏やかで、感情を発露させることなんて滅多にない。それが、こんなに強引な面も持ち合わせているなんて。

 さっきから、どんどん彼の新しい顔を見せられて、困惑している自分がいる。

「一週間ある。……東京に帰るまでに、俺は必ず君の心を取り戻す。だから、覚悟して美海」

 頭上で低く響く彼の声を、私は息を詰めて聞いていた。

 
< 88 / 226 >

この作品をシェア

pagetop