官能一夜に溺れたら、極上愛の証を授かりました
「どうだい、美海ちゃんは? 働き者だし、いい嫁さんになると思うよ」

 頼んでもいないのに、私のことを押し売りしようとする。

「俺も頑張って口説いてるんですけどね。なかなか素直に応えてくれなくて」

「ちょっと、貴裕さんまで!」

「なんだ美海ちゃん。もったいぶってると、あっという間におばさんになっちゃうぞ」

「俺は美海がおばさんになろうが、始終ぷりぷり怒ってようが、一向に構わないんですけどね」

 なんて言って優雅に微笑む貴裕さんに絶句する。貴裕さんって、こんな性格だった⁉

「言うねぇ、兄ちゃん。俺は応援するぞ!」

 お客さんが、ヒューっと口笛を吹く。半分以上席が埋まった食堂の真ん中で、私は恥ずかしさのあまり固まってしまった。

「美海ー、焼き魚上がったぞ!」

「あっ、はーい」

 厨房から、雄ちゃんの呼ぶ声がする。まだ盛り上がっている貴裕さんとお客さん達を尻目に、私は厨房に逃げ込んだ。

 お客さんからの冷やかしをなんとか交わしながら焼き魚を配り終え、再び厨房へ戻ると、雄ちゃんがジトッとした目で私を見た。

「……何?」

「昨日の今日でずいぶん仲いいじゃん」

「そんなことないよ」

「あるだろ。時田さん、ずいぶん積極的だなぁ」

 食堂でのやり取りは厨房からも丸見えだったらしい。容赦なく冷やかしてくる雄ちゃんに引き替え、智雄さんは無関心を装って、もう賄いを作り始めている。

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