13番目の恋人
『遅くなるから、食事は済ませておいて』と言われたので、デパ地下の望月庵で水羊羹を買って向かった。疲れていたら甘いものが食べたいだろうけれど、普通の羊羹はお腹に重いだろうから、季節の芋羊羹と栗羊羹は我慢した。
 
望月庵は、私の実家である和菓子屋だ。本店では夏の季節限定で昔ながらの切っただけの物が売っているが、店舗ではカップ容器に入れることで日持ちさせ、年間商品として取り扱っている。やはり売れるのは夏らしいけど
 
『すぐわかると思う』と、彼が言った通り、メッセージで送ってくれた住所には高層マンションがそびえ立ち、とても目立っていた。

私は一人暮らしをするまで、実家暮らしで、実家は純和風の日本家屋だ。あの家はいずれは兄が引き継ぐだろう。姉も本店近くに戸建てを構えているし……おかげで、マンションにあまり縁がなかったが、このマンションが立派なものであることは、一目でわかった。
 
言われたとおり、マンション入り口でパスワードを打ち込んで、部屋のドアでも、パスワードを二度打ち込むらしい。ドアのロックが解除される音が聞こえると、そおっと開けた。
 
「おじゃま、します……」そう言って中へ入った。
 
わ、広い。
玄関入ったところで、電気に戸惑っているとセンサーらしくパッと明るくなった。
 
シンプルな部屋だけれど、多分、一部だけしか使ってないのだろうな。というのが見てとれた。忙しいのだろう、本当に。ここへはきっと寝るのに帰ってきているだけなのだろう。
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