13番目の恋人
「幸せな結婚をさせてやりたい」
 
 今度は随分と優しい顔付きでそう言った。
 
「愛され過ぎてな。そして家族で一人だけ子供っていう環境で育っただろ? 兄妹で何かを取り合うとか、争うとかそんなのもなく、おっとりと育った。それ故、全く人を疑う事を知らない。誰もが愛してくれると信じている。その通りなのだが、可愛いのだから。だが、外に出るとそうはいかないだろ? なんせ、その、見た目が……」
 
「ああ、どうも艶っぽい」
 
「そうだ、そうなんだよ。ストーカー、連れ去り未遂。……全部事前になんとかしたが。お陰で小百合にトラウマはないが、そういうのが何回とあった。全部、金銭ではなくイタズラ目的。それが、家族の過保護に拍車をかけたんだ。まあ、なんつーか、変な奴が寄ってくる。当の本人は疑う事を知らず、相手の愛だと受け入れる。男の許容範囲が普通より広い。つまり、あいつ、ヤバいんだ。だから、家族も早めに嫁がせたい。なのに……OLになりたいと……なんだ、かんだみんなあいつには甘くて。社会人経験をさせるのも愛だけどな。で、俺が面倒見ることになった。俺と、万里子とで。種明かしするとそうだ。それから、独り暮らししたいと言いだして、そこも実家の息のかかったセキュリティ、管理者常在のマンション」
 
 ああ、何か色々つながったぞ。
「なるほど」としか、俺は言えなかった。思い当たるふしが多すぎた。
 
「遂には……恋愛がしたいと言い出した。オフィスラブみたいな自然なやつ……」
 
 ああ、何もかも府に落ちた。そこで、あのリストか。
 
 ……つまり、彼女は……俊彦の友人の妹。
 これが、どういうことか。俺はこの場で考えた。
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