13番目の恋人
「そうそう、俊くんがね」

 彼女はもう隠すことなく彼女の会社の常務をそう呼ぶ。
 
「婚約発表したのだけれど、お相手誰だと思う!?」彼女のわくわくした顔に、とても知っていたとは言えずに、笑うに留めた。
 
「……知っていたの?」
「まあ……」
「お似合いよね」
「そうだなあ」
 
 婚約パーティーに招待を受けたタイミングで婚約者だと万里子さんを紹介された時は非常に驚いたが、以前の大宮主宰の社内の飲み会で万里子さんが、俺に『見張り』などと言って小百合を託した事にも合点がいく。
 
 まさか、リストアウトした俺が小百合と結婚するなんて、思わなかっただろうな。俊彦も。
 
 勘違いとはいえ、俊彦に振られた事を気の毒に思わなければ……あのリストがなければ……

「どうしたの? 頼人さん」
「いや……幸せだなって」
 
 彼女が少し頬を染めて、笑う。
 過去の彼女とも、婚約破棄しなければ、俊彦の会社に来なかったかもしれない。
 
 不思議なものだな。今は、幸せだ。艶やかな黒い瞳でじっと見てくる。
 
 お揃いのパジャマは、薄手だけれど、二人でくっついて寝るのなら、きっとちょうどいいかもしれない。
 
 ……まだ、朝だったな。
 もう会社で会えなくなったけれど、休日は早朝から通うつもりだから、いいか。
< 195 / 219 >

この作品をシェア

pagetop