13番目の恋人
「頼人さん、初恋っていつだった?」
「覚えてない」
 
 嘘だ。本当は覚えている。幼稚園の先生とかそんなんだ。だけど、そう言ったのは、小百合側のを聞きたくなかったからだ。
 
 綺麗な色の上生菓子が二つ。勿論、望月庵のものだ。椿の花を形作った紅色の餡で作られたものと、梅の花か。こちらは淡い色合いの薄い餅で餡が包まれている。
 
 椿の方を見ながら、不意に小百合がそう言ったのだ。小百合の初恋話を聞きたくなかったのは、小百合の初恋が俊彦だろうと思ったからだ。何となく腹が立つ。
 
 でも、じっと見てくる小百合に諦めて
「小百合の、初恋は俊彦だろ?」自分から訊いた。
「え、違うよ。俊くんとは幼稚園の頃出会ったから、初恋はもっと前だもん」
 
 意外に……早熟……だったのだな。
 
「ふうん、どんな人?」
「お祖父ちゃん」
 
 ほっとした。ものすごいほっとした。
 
「ああ、格好いいもんな」
「お庭の椿の花が綺麗でね。でも取っちゃダメだって言われてたの。お祖父ちゃんも大好きなお花なんだって。だから、落ちた花びらを貰うくらいで我慢してたんだけどね」
 
 小百合の実家の庭には椿の花が綺麗に咲いていたのに、見覚えがあった。
 
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