13番目の恋人
「でも、ある日、我慢出来なくて椿のお花が欲しいってお祖父ちゃんに言っちゃったの。そしたら惜し気もなく、枝を折って髪に刺してくれたの。お姫様みたいだなって」
「それは惚れちゃうな」
「でしょう? でもそこで惚れたんじゃないの。椿の花って急にバサッて落ちるでしょ?」
「そうだな、花がそのまま落ちるもんな」
 だから、武士の家では縁起が悪いと嫌われたって話もあるくらいだ。
 
「悲しくて泣いたの。せっかくお姫様みたいだったのに。そしたら、お祖父ちゃん、これは落ちないからって……」
 
 そう言って、目の前の生菓子に目を落とした。
 
「そうか、お祖父さんとの思い出の生菓子なのか」
「うん、こんな落ちない椿作れるなんてすごい!って思って……」
「そうか、初恋がお祖父さんって、喜ぶだろうな」
「お祖母ちゃんに『ライバルね』って言われた」
 
 あのお祖母さんなら、言いそうだ。想像出来て笑ってしまう。
 
「でも私、気づいちゃって。この椿……食べたらなくなっちゃう!」
「また作って貰えよ、それに日持ちしないから早く食べないとな」
「うん、でも、見た目は椿が好きだけど、その薄餅の梅の花の方が味は好き」
 
 まさにそっちを食べようとしてたのを、慌てて皿に置いた。

 「半分こ、しよう」
 小百合が黒文字を持って、そう言った。いつも食べているのだからと、譲ってくれる気はなさそうだ。
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